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2007/06/13

正義の味方の孤独

何となく思いついたので書いてみました。感想などありましたらお気軽にコメントどうぞ。


 僕が彼を最初に見かけたのは、学校帰りに通る河川敷でのことだった。やたらといい体格の人が、やたらとしょぼくれた後ろ姿で釣り糸を垂れているのを不思議に思った。平日の昼間から何をやっているんだろうこの人は。そんなことを思ったような気がする。
 そのうちに、彼が毎日同じ位置で同じように釣り糸を垂れているのに気がついた。毎日、抜け殻のようになって釣り糸を垂れる姿。いったい彼はどういう人なのだろう。そんな疑問がわいた。別に貧しい格好をしているわけではない。むしろ、河川敷で釣り糸を垂れるにしては良すぎる格好というのが気になった。だから、学校帰りについその人に声をかけてしまった。
「こんにちは。」
 彼は数秒間かけてゆっくりと僕の方を向いた。自分に声をかけてくる人がいるとは思っていなかったのだろうか。驚いたような顔をしていた。
「毎日ここで釣りをしているんですね。」
 彼に警戒されただろうか。そんなことを考えながら僕は言葉を続けた。
「君は?」
 彼はかなりやつれていた。別に栄養が不足しているとかそういう感じではなく、生気が感じられない、そう見えた。 
「この近くの高校に通っています。毎日、帰りがけにここを通るので。」
 僕に投げかけられた疑問の答えとしては間違っているかもしれないなと思った。
「高校生か。君には夢があるか?」
「夢ですか?」
 突然の問いにどう答えて良いのかわからなかった。
「具体的な夢はちょっと。」
「そうか。でも、夢を持たない方が良いかもしれないな。」
 彼の声はとても寂しそうだった。
「あなたは何か夢があるんですか?」
 失礼かもしれない。でも、彼の言葉が気になってしまい、ついつい訊いてしまった。
「私の夢か。今はもうなくなってしまったな。」
 彼は釣り竿を上げた。針の先にはエサがついたままだ。隣に置いてあるバケツは空。どうやら1匹も釣れていないらしい。
 エサがついていることを確認した彼は、また釣り竿を川に垂らした。
「君、正義の味方をどう思う?」
 突然だった。僕はこの質問にどう答えて良いかわからなかった。
「私は、正義の味方だった。」
 いきなりの台詞。彼は何を言っているのだろうか。
「悪の組織と戦っていた。命をかけて。」
 この人はどこかおかしいんじゃないのか?僕は少し話しかけたことを後悔した。
「あぁ、そうだな。正義の味方は一般人には知られていないんだったな。」
 彼は小さく笑った。何に対して笑ったんだろうか。
「よくわからないだろうけど、悪の組織と戦う正義の味方がいた。それが私だったんだ。」
 彼はぽつりぽつりと話し始めた。
「日々悪の組織の繰り出す怪人と戦い、傷だらけになりながら暮らしていた。苦しかった。でも、充実していた。命の危険と隣り合わせの生活だったが、自分が戦うことで正義が守られる。命の危険に対する見返りとしてはそれだけで十分だった。」
 幸い時間がある。僕はもう少し彼の話を聞こうと思った。
「でも、今は充実しているようには見えませんね。」
「あぁ。悪の組織が壊滅したからな。」
 よくわからなかった。悪の組織が壊滅したことは良いことだと思う。でも、彼はそうとは思っていないようだった。
「悪の組織が壊滅したら、正義の味方はどうなると思う?」
「よくわかりません。」
 彼の発した問いに、僕は答えられなかった。
「そうか。わからないか。」
 彼は大きなため息をついた。
「失業するんだ。」
「失業?」
 正義の味方とはつながらないその言葉に、僕はオウム返しするので精一杯だった。
「あぁ。失業だ。正義の味方は悪の組織に対抗するためにある。悪の組織がある間は、予算も下りる。でも、悪の組織がなくなったら、予算を正当化する理由がなくなる。」
 いきなり泥臭い話になってきた。
「その結果が、リストラだ。もう、正義の味方はいらないから、再就職先を探せといわれた。」
 僕は呆然と彼の話を聞くことしかできなかった。
「でも、正義の味方しか取り柄のない私にどんな仕事が出来る?私も色々と探した。でも、不景気の世の中、正義の味方をしていましたといううさんくさい男を雇ってくれるところなんかどこにもない。私はなんのために戦ってきたんだろうね。」
 かける言葉が見あたらなかった。
「正義の味方をしているとき、私には恋人がいたんだ。彼女は秘密基地のオペレーターをしていた。職場恋愛だな。悪の組織がいた間、彼女とはうまくいっていたんだ。悪の組織を壊滅させたとき、彼女はとても喜んでくれた。おめでとう、よく頑張ったわね…ってね。でも、それから彼女との関係はどんどん悪くなっていった。悪の組織がなくなり、退屈になった日々。そして、私だけではなく、彼女もリストラの対象になったんだ。」
 正義の味方とはとても思えない話の展開に、僕はなすすべもなかった。
「『あなたから正義の味方を取ったら何も残らないのね。』これが彼女の別れの言葉だった。いつまでたっても就職先の決まらない私に愛想を尽かしたんだろうな。悲しかったけど、心のどこかでしょうがないと思っていた。自分が抜け殻になっていることがわかっていたんだろうね、きっと。そして、彼女は田舎に帰っていった。風の噂で聞いたところによると、田舎でお見合いをしたそうだ。申し分のない相手だったそうだ。来年、挙式をするらしい。」
 元正義の味方は肩を落とした。
「所詮、光と影は対になるもの。影がなくなれば光の意味もなくなる。そして、私は光ることを忘れてしまった。壊れた電球みたいなもんだ。」
 彼は釣り竿をたたみ始めた。手元に残っていたエサを川に投げ、すっくと立ち上がった。
「つまらない話をしたね。」
「い、いえ。」
 つまらないというかとんでもない話だった。
「正義の味方の話は秘密だ。守秘義務というのがあってね。下手に話したら命が危ない。だから、君は単なる失業者の愚痴を聞いた、そう思っていてくれ。」
 彼はバケツに釣り具を無造作に放り込み、歩き出した。
「君は私のようになるなよ。まだ若い。」
 僕はそんな彼の後ろ姿を黙って見送った。彼はこれからどんな暮らしをするのだろうか。興味はあったが怖くて訊くことが出来なかった。

 その日以来、河川敷で釣りをする彼の姿は見えなくなった。就職先が見つかったのだろうか。それとも、守秘義務とかいうものを破って追われる身になったのだろうか。
 彼も、また、悪の組織の犠牲者だったんだろう。僕は、彼の幸せを祈らずにはいられなかった。 

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